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 一昨日は、【記憶の劇場III】活動⑦「ドキュメンテーション/アーカイヴ」講座に「維新派アーカイブス」を推進されている清水氏を迎え、受講生案に講評をいただきました。PLAYなどアーティストとの関わりに着目した学生の案に関するやりとりの中で、松本雄吉さんがよく話していたという、梅田の歩道橋での新年の「お葬式」のことが話題にのぼりました。そばで聞いていた私はアッと思いました。これはひょっとして・・・


 私が最初に維新派を目撃したのは、進学のため大阪に出て来てすぐ、屋内のライブハウスかどこかで行われたパフォーマンスです。1990年代初頭、まだ圧倒的な存在感のある男性メインの蒸気機関パフォーマンスは十分衝撃的だったのですが、驚いたことにその中には出身高の同級生がいました。私事ですが、高校時代バスケに明け暮れながらたまの休みは文系の人たちに遊んでもらっていた私は、進学後も冬休みに帰省するたび、そのK君が主催する大晦日から元旦にかけての奇妙な”イベント"に参加していました。それは「23時半〜県庁前歩道橋に集合!」と書かれた招待状(今思うと指示書か)を、郵送だか手渡しだかで受け取ることに始まり、歩道橋からどこをどう歩いたのやら隣町の彼の実家が営む純喫茶までたどり着き、だらだらとジェンガをし、日の出とともにすぐ前の灯台まで散歩し、これまたすぐ裏の神社に初詣して解散するのです。そういえば、K君が懇意にしていた「シネマ5」に交渉し、壁際にずらり立ち見で映画のタダ見をさせてもらったこともありました。しかし大晦日の歩道橋。「なぜに?(こんな時間にこんな寒いところに呼び出すっちゃねー)」大学でにわかにアートにかぶれた私の様々な愚問に、彼はいつもにこにこしながら答えなかったのですが、記憶をたぐれば確かに「お葬式」と言っていた。


 こうして忘れていた問いの答えが30年近くを経て思わぬ形で降ってきたわけですが、松本雄吉氏に由来する「お葬式」イベントが大分に伝播していたとして、それは一体誰のお葬式だったのか。なぜその日だったのか・・・


 さて、以下はその答えではありません。松本氏の元旦葬式とは無関係なトピックとしてお読み下さい。けれども昨日の講座[https://kiogeki.org/2018/06/09/1290.html]は奇しくも、年の境目に一斉に失効するものについて、みっちり解説いただくものでした。除夜の鐘とともに亡きものとなってゆくもの。それは、作家の死後50年を迎えた著作者の権利です。著作権にはアーカイヴで稀少台本を全コピしようとしてちょいちょい泣かされてきましたが、失効するのは作家の命日だとばかり思っていました。こうして基礎を学んでみると、大晦日というのは、作家の法的な死を弔うべき日ということになります。面白いのは、こうした意味でも"作者の死”なるものが、作品にとって再生、再評価の契機へと転ずるところ。それはシェイクスピアやベートーヴェンといった古典の殿堂入りしている大作家の「作品の死後の生」が示すとおり。もちろん作家の名が50年、100年という時間を耐えるには、それぞれの時代と地域において台頭する社会層と技術的発展をともにするメディアに変換することと無関係ではありません。こうしたメディア論の観点からも、維新派をめぐる現代のアーカイヴ化の動きは、注目に値するものと言えましょう。


 一方で、我田引水となりますが博物館主催である本活動「ドキュメンテーション/アーカイヴ」がメディア技術とともに逆説的に重視する一つが、展示も収蔵もできないメディア、すなわち人です。書物に編むにせよ、資料をデジタイズするにせよ、それを紐解き新たな創造へと生かすのは、記憶の貯蔵庫としての身体にほかなりません。そしてこの身体が活性化する契機の一つが、私の記憶と誰かの記憶、あるいは私的な記憶と共同体の物語がつながるところではないでしょうか。そのおもいもよらぬ経路が発見されるとき、脳内にとどまらず全身の感覚と行為を司る身体の古層が揺さぶられ、その地図が活性化される。維新派の50年近い活動は、そうした個人の記憶と共同体の物語とメディアの厚い織物、豊かな地下茎を蓄えた肥沃な土地の地図にもたとえられます。


 今、このプロジェクトでは、2016年、2017年と維新派との協力の中で何らかのメディア制作をとおして、維新派の面白さを伝えるメディエイターとなった受講生が、今年度新たに維新派を見たことない世代の受講生を迎えて、この豊かな鉱脈をたぐってゆこうとしています。どうぞ、維新派に関する記憶や資料をお持ちの方は、画像とコメントという形で私どもの手に、それを一時預けていただけませんでしょうか。もちろん、自分だけのポケットにしまっておきたいものはそっとしておいて。そして、演者の身体を紐解こうとする、オーラル・ヒストリーならぬフィジカル・ヒストリーのあり方を模索するトークとワークショップの貴重なイベントにも、是非ともお立ち会い、ご体験、目撃いただきますよう、よろしくお願いいたします。


【記憶の劇場III】活動⑦「ドキュメンテーション/アーカイヴ」事業担当:古後奈緒子


「維新派を愛したみなさまへ-旅の記憶収集プロジェクト—」に思い出を寄せていただける方☞

9月15日「トークイベント ー想起と追憶 + 仲間になるー」にご参加いただける方☞

9月16日「ワークショップ ー再現と体験 + 演ってみるー」にご参加いただける方☞

17:00-頃からショーイングを行います。ご予約不要です。

お問い合わせ先 3redoc2018@gmail.com 担当[古後] 

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